キュッと鳴くブレーキ

3 d ago

ここ一週間ほど、カブが止まるたびに後ろから「キュッ」と小さく鳴くようになった。鴨川沿いの信号で止まると、横断歩道の観光客がみんなこっちを振り向く。悪いことは何もしていないのに、なんだか申し訳ない気持ちになる。

昨日の木曜、仕事から帰ってきてから、家の前の路地で直すことにした。六時前にはもう暗い。玄関の明かりだけでは足りないので、懐中電灯をペダルの横に置いて作業した。昼間は二十度を超えていたのに、日が落ちると一気に涼しくなって、長袖一枚でちょうどいい夜だった。

カブの後ろのブレーキはドラム式で、遊びの調整なら後ろのナットを回すだけで済む。でも今回は回してみても音は消えなかった。仕方がないので後輪を外して、ドラムを開けてみた。中は黒い粉でいっぱいだった。このカブは二十年以上走っていて、その間のブレーキの粉が、ずっとここにたまっていたのかもしれない。前の持ち主も、その前の持ち主も、たぶん一度も開けていない。

パーツクリーナーで粉を飛ばして、シューの表面を紙やすりで軽くこすって、カムのところにグリスをほんの少しだけ塗った。多すぎるとシューについて、今度は止まらなくなる。それは鳴くよりずっと困る。

途中で向かいの家のおじいさんが出てきて、缶コーヒーを一本くれた。昔は新聞配達で毎朝カブに乗っていたそうで、しばらく黙って手元を見ていたあと「音が鳴るうちは、まだ止まっとる証拠や」と言った。なるほどと思ったが、手は止めなかった。

後輪を戻して、ブレーキペダルの遊びを二、三センチに合わせ直した。全部で一時間半くらい。使ったのはパーツクリーナー一本と、グリスを少し。五百円もかかっていない。

最後に路地をぐるっと一周して、角の自販機の前でブレーキをかけてみた。何も鳴らなかった。聞こえるのはエンジンのトコトコという音だけ。おじいさんは「静かになったなあ」と言って、少しさびしそうに家に入っていった。

本当に直ったかどうかは、週末に大原からの坂を下りるときに確かめるつもりだ。

📅 16 Oct 2026 👁 1 💬 0 👍 0

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